「遺言を書いておけばいいんでしょ?」「お金少ないし、子どもたちが何とかしてくれる」…相続のシーンでは、こういった声が多く聞かれます。しかし、安易な生前対策をした結果、骨肉の「争族」が発生してしまう例は後を絶ちません。そこで連載では、税理士法人レディング代表・木下勇人氏の書籍『ホントは怖い 相続の話』(ぱる出版)より一部を抜粋、さまざまな事例をもとに、相続の基礎知識を解説していきます。
「兄が海外にいるんだけど…。」内田さんのケース
内田さん(48)の兄(53)は長く海外で暮らしています。先日、兄が体調を崩したという連絡を受けました。幸いすぐに回復したようですが、年老いた両親はとても心配していました。内田さんは「兄さんの手続きを調べておかなければ」と思いました。
海外勤務や留学などで、海外で生活する人が増えています。今や国際結婚も珍しくありませんし、リタイア後の第二の人生を海外で過ごしたいというシニアもちらほら見かけます。
国をまたいだ相続は、手続きがかなり面倒です。遺言がある場合は遺言通りに相続するため、さほど手間はかからないのですが、遺言がない場合は、数年かかることもあります。
【相続人の一人が海外にいる場合】
被相続人が日本国籍を有しているならば、相続人のうち一人が海外に住んでいても、日本の法律にしたがって相続手続きをすすめていかなければなりません(ただし、被相続人と相続人の両方が海外に10年を超えて居住している場合等、所定の要件にあてはまれば、被相続人の海外財産は日本の相続税の対象とはなりません。つまり、日本にある財産のみが相続の対象となります)。
→住民票が日本にあるケース
海外在住でも、住民票が国内にあれば印鑑証明書を取得することができるので、手続きは相続人全員が日本にいる場合と同様です。
→住民票が日本にないケース
海外在住の人が日本の住民票をすでに抹消してしまっている場合、日本領事館または領事館で「サイン証明」や「在留証明」などを発行してもらうことが必要になります。印鑑登録は、住民票を登録している自治体に行うため、住民票が日本にない人は、印鑑証明書の発行もできないからです。
・サイン証明……印鑑証明書に代わるもので、申請者の署名(および拇印)が確かに領事の面前でなされたことを証明するものです。
・在留証明……住民票に代わるもので、住所の証明になるものです。
【本人が被相続人になった場合】
海外在住の親族が亡くなった際の相続の手続きは、被相続人の国籍がどこかで変わってきます。被相続人が海外に住んでいたとしても、国籍が日本の場合には、日本の法律にしたがって相続手続きをすすめていきます。
ただし、海外にある財産については、現地の法律に基づく手続きをする必要が出てきます。場合によっては、海外現地での課税も行われるため、生前にどのような手続きが必要かを確認しておく必要があります。
【国境を越えた相続の手続きには、ハードルがたくさん】
海外が絡む相続の手続きは、国内で完結する場合に比べ、複雑で時間を要する場合が多いです。自分で手続きを進めようとした場合、使えない証明書をとってしまうなど、ムダなお金と時間をかけてしまうことにもなりかねません。その方面に詳しい専門家を探して、早めに相談されることをおすすめします。
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