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Wednesday, August 5, 2020

<8月の窓>君の瞼に私はいますか - 東京新聞

 「両親に貴女のことを話してます。誕生日だったのですね。覚えておきましょう。何時か役立つことがあるでしょうから」

 大学在学中に召集され、学徒出陣で戦地に赴いた1人の若者から届いたはがき。当時15歳だった東京都板橋区の酒井ゆき子さん(90)は、今もその文面を思い返す。

 酒井さんは9歳のとき、海軍の軍人だった父親を病気で亡くした。母と妹、生後4カ月の弟とともに、広島県呉市から親戚のいる神奈川県横須賀市の借家に移り住んだ。

 1944(昭和19)年夏、親戚のお兄さんが友だち6人を連れてきた。みな海軍の軍服姿。大学生だったが、召集されていた。高等女学校に通っていた酒井さんも海軍の工場へ働きに出ていた。

 出征までしばらくの間、彼らは何度か訪ねてきた。大勢でおしゃべりを楽しんだ。これから戦地へ向かう緊張感は感じられなかった。朗らかなひととき。その中に気になる若者がいた。

 戦火が激しくなり、岡山市に疎開した酒井さん。この年の11月、戦地にいる若者に軍事郵便で初めてはがきを送った。

 「武運長久を祈る。昨日が誕生日でした。お元気で」

 そうつづったところ、しばらくして「両親に貴女のことを話してます」という返事が届いた。再会を願うような文面。だが、その後、親戚から「戦死」の知らせを受けた。

 彼は海防艦に乗り、南洋に沈んだのだと聞いた。「返信をいただいた時は、もう戦死なさっていたようです」

 彼は最期に何を思ったのだろう。「誕生日を覚えておきましょう」という返信の意味は何だったのだろう。

 終戦から75年。「年を取ると、いろいろ思い出しまして…」。そう話す酒井さんは今年、大事にしてきた記憶を俳句に詠んだ。

 水漬く屍 いまわの瞼に 吾はありや

(土門哲雄)

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