パナソニック くらしアプライアンス社は、新たな食品乾燥技術「常圧凍結乾燥技術」を使った乾燥食品のプロトタイプを完成させた。京都大学大学院 工学研究科化学工学専攻 中川究也准教授との共同開発によるもの。パナソニックが取り組む共創パートナーと新たな食の体験価値を創造する「未来の食プロジェクト」の一環。
常圧凍結乾燥技術は、一般的な熱風式の乾燥食品に比べ、栄養素や風味が豊かであることが特徴。冷凍した食品から水分を抜くという手法はフリーズドライにも似ているが、フリーズドライは食材を真空状態に置く必要があり、大規模な設備が必要になる。常圧乾燥技術では真空状態は必要なく小型化が可能で、冷蔵庫など家庭用製品の開発も視野に入れている。
食品乾燥は通常、食品中の水分が抜ける昇華現象を利用して行なう。冷凍庫に入れた食材でも昇華現象はおこるが、通常の冷凍保存では、水分が抜けるのをいかに抑制するかによって、おいしさを維持することを目指しており、パナソニックの冷蔵庫に搭載されている「うまもり冷凍」もそうした機能の一つ。
常圧冷凍乾燥は、その逆転の発想で、食材を冷凍保存した後、氷となった水分を除去して食材の水分を抜いて乾燥させる方法。
食材の乾燥方法として一般的な熱風による乾燥では、食材の熱に弱い成分が変化し、形状変化も激しくなるが、低温で乾燥させる常圧冷凍乾燥では、栄養成分をより多く保持することが可能。キウイを常圧冷凍乾燥した場合では、クロロフィルやビタミンCがより多く保存され、栄養価が高い食材を保存可能になる。
また、フリーズドライ方式による乾燥とも異なり、フリーズドライがサクサクとした食感なのが特徴なのに対し、しっとり、ねっとりした独特の食感に加え、より香りが豊かな状態で乾燥させることができる。
常圧凍結乾燥食品は、1カ月の常温保存が可能で、水分の調整により食感の異なる乾燥食品を作ることもできる。
既にある冷凍庫の技術を応用
より詳しい説明は、京都大学大学院 工学研究科化学工学専攻 中川究也准教授が行なった。
熱風で食材を乾燥させる場合、水は蒸発して外に逃げるが、このとき小さな組織に水が保たれていると、毛細管力によって構造が破壊されてしまう。さらに外部からの熱によっても品質が悪化し、栄養素や香りの成分が大きく減ってしまう。
一旦凍結させて水分を氷にした上で氷となった水分を取り除く常圧冷凍乾燥では、毛細管力が小さいまま乾燥が可能で、最終的な水分量は非常に低く、水で復元もしやすくなる。
凍結させた食材の氷になった水分は、冷たい乾燥した冷気をあてることで昇華させることが可能。空気を冷やして露点に達し、湿度100%になった空気を加熱すると、非常に湿度が低い空気ができあがる。その空気が食品の氷点以下であれば乾燥ができる。この仕組みはすでに冷凍庫に備わっているもので、これを旨く使うことで常圧冷凍乾燥技術を開発した。
乾燥した空気をどう当てるか、空気温度をどういうアルゴリズムで使うかなどを、最適に制御することで実現している。
また、フリーズドライでは真空で凍結乾燥をさせるが、真空の場合、食品が乾燥するとその食品を構成する組織の間の隙間が狭く小さな穴が沢山あいている状態になる。真空を使わない常圧凍結乾燥では、この隙間が大きいことから、香り成分をより多く閉じ込め、栄養成分も維持できるようになる。
香り高い乾燥食品を開発可能
乾燥食品のプロトタイプは、料理作家KYOTO SNT LAB.の中村元計氏、才木充氏、髙橋拓児氏と共同開発。常圧凍結乾燥で出来立ての雑炊を乾燥食品に加工すると、湯を注いだ際に既存製法よりも三つ葉や松茸の香りが広がり、より出来立ての状態を再現できた。これにより、香りを残したい食材で強みを発揮することがわかったという。
今回は、乾燥食品のプロトタイプとして、「鰻の炊き込みご飯」「雑炊」「ぜんざい」の3品が完成。鰻の炊き込みご飯については、家電と食のサブスクリプションサービス「foodable」で販売を予定している。
今後は和食の海外展開や機内食、宇宙食、災害食などへ展開。廃棄される規格外の青果物や未利用魚などを乾燥食にしてフードロス削減にも貢献。foodableの事業も含め、2030年までに100億円規模の事業を創出することを目標としている。
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