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Tuesday, November 7, 2023

その香りに悩んでいます…職場の「香害」どう伝えたら?我慢で過敏症も【時事ドットコム取材班】:時事ドットコム - 時事通信ニュース

 職場に漂う香水や柔軟剤の香り。使っている当人は気付かないまま、周囲の人が化学物質過敏症を発症してしまうこともある。「頭痛がする」「せきが止まらない」。ただでさえ、注意しにくいにおいの問題。困っていながら、上下関係などから声を上げにくいと感じている当事者たちは、自覚なき「香害」に頭を悩ませている。(時事ドットコム編集部 川村碧

 【時事コム取材班】

ある日を境に進行する症状

 接客業の40代女性が化学物質過敏症を発症したきっかけは、職場の男性上司にあった。「同じ職場になった当初から、香水と柔軟剤の香りが『きついな』と感じていました。3~4カ月は黙っていましたが、ある時、狭い部屋で10時間ほど一緒に作業することがあり、部屋に充満した香りで、のどの痛みとせきが止まらなくなってしまいました」と語る。

 女性はこの日を境に、通勤ですれ違う人たちから発せられる柔軟剤や香水の香りまで強く感じられるようになったという。「化学物質過敏症かもしれない。でも、まさか自分が?」。信じたくない気持ちもあったが、舌のしびれや頭痛などの症状は徐々に悪化。帰宅してすぐに寝込んでしまうこともあり、「仕事ができなくなってしまったらどうしよう、と怖くなった」と語る。

 小学校の40代女性教諭が異変を感じたのは4年前。近所に干してあった洗濯物が原因だったが、今では同僚や児童の衣服の香りにも悩まされる。

 「職員室で香りの強い人が近くにいると、せきが出て息苦しくなる」。そう話す女性は職員会議で過敏症を公表。症状がつらいことを伝え、同僚教諭に「使っている柔軟剤の種類を見直してほしい」とお願いした。2人からは「見直す」との言葉があったが、他の同僚からは反応がなかったといい、「どう思われているんだろう。もう少し違う伝え方があったかもしれない」と感じている。

めまい相談で本格対策も、「これってセクハラ?」

 従業員の声を受け、改善に乗り出した企業もある。天然エビの加工販売「パプアニューギニア海産」(大阪府摂津市)の代表、武藤北斗さん(48)によると、数年前、従業員の作業着から柔軟剤の香りを感じるようになった。その都度、声掛けしていたが、だんだんと香りの強い人が増加。「気持ち悪くなる」「めまいがする」などと訴える従業員も出るようになり、1年半前、本格的な改善に取り組み始めた。

 ミーティングで繰り返し香りへの配慮を呼び掛け、複数人から指摘があった従業員には個別に「対策してください」と注意した。「ただ、注意しても『香りがしますか?』という反応で、自覚がないパターンがほとんど。なかなか改善しない人もいた」。最終的に、従業員の使っている洗剤・柔軟剤を聞き取り、香りの強い製品の情報を社内で共有することにした。

 「香りのことを注意するのはプライベートに口出しするようで、正直嫌だった。強く言うとセクハラやパワハラになるのでは、とも考えたが、苦しんでいる人がいる。厳しく対応した」と武藤さん。改善の中で、自身もストレスに感じていた口頭注意は、メールでの指摘に切り替えたそうだ。対策は従業員からも支持されているというが、「注意された側が『嫌がらせなんじゃないか』と誤解してしまう危うさも感じていた」と語る。

香りの悩み、どうすれば

 先に紹介した接客業の女性は、意を決し、男性上司に困っていることを伝えたそうだ。香水などの使用をやめてもらえたが、症状は続き、「我慢せずにもっと早く言えばよかった」と話す。女性教諭は「香りがきつい同僚に個別にお願いし、反発されたこともある。においという言葉を使うと感情的になる人も多い。当人が『誰かの害になっている』と思っていないところが問題の難しさ」と語っていた。

 「隣の席の人の香りが強すぎる」といった悩みはSNS上でもささやかれている。もし職場で香りの問題が起きたらどのように対応すればいいのだろうか。ドリームサポート社会保険労務士法人の特定社会保険労務士、田所知佐氏に取材した。

 ―職場の香りに悩んだ場合はどうすればいいでしょうか。

 本人に直接言えない場合は、上司もしくは人事担当者に相談するルートがあります。

 ―社員から相談があったら会社はどう対応すべきですか。

 まずは、香りによって「頭痛がする」「仕事に集中できない」といった具体的な声が寄せられていることを朝礼や張り紙などで職場全体に注意喚起します。それでも改善されず、香りの指摘をされた人が特定されている場合は、他の人に聞かれないようにプライバシーに配慮した上で個別に話をします。重要なのは本人を責めないこと。セクハラになる心配があるなら、同性の人が注意するのがよいでしょう。

 ―香りで体調を崩す化学物質過敏症の人も増えています。

 会社には、労働安全衛生法上、仕事をしやすい環境を整える義務があります。ただ、照明の明るさや温度については基準がありますが、香りに関する指標はありません。過敏症の従業員が苦しんでいる場合は、「できることは配慮しよう」という対応になると思います。具体的な配慮は、会社側の努力や考え方次第になります。

 ―会社が香りのルールを定めることはできるのでしょうか。

 就業規則や社内のルールとして「強い香水、またはそれに代わるものは使用しないこと」などと定めることはできます。会社の姿勢を社員に宣言しておけば、香りの問題が起きたとき、個人の主観的な判断ではなく、会社のルールに沿った対応ができ、トラブルを避けられます。

香りに「慣れ」、使いすぎが2割

 洗剤メーカーなどでつくる日本石鹸洗剤工業会によると、2022年の柔軟剤の国内販売量は20年前の約1.7倍まで伸びている。工業会が20年、1都3県の消費者約460人を対象に実施した洗濯実態調査では、約8割が「香りつきの柔軟剤を利用したい」と回答したという。

 背景には、2000年代後半に起きた海外製柔軟剤のブームなどがあるとみられるが、販売量が伸びるにつれ、国民生活センターに「頭が痛くなる」「においがきつい」といった相談が寄せられるようになってきた。相談は2010年ごろから増え始め、13~22年度の10年間の累計は約1950件に上る。

 こうした状況に、大手メーカーはどう対処しているのか。13年に国民生活センターから情報提供を受け、ホームページや商品に香りの強さが分かる表示を始めた。例えば、花王は扱っている柔軟剤を「無香料」「微香」「しっかり香る」に分類したり、香りの強さを星の数で表したりしている。

 それでも相談が減らない理由の一つに、一回当たりの使用量が多すぎるということもあるようだ。工業会の実態調査では、使用者の2割程度が、目安量の2倍以上を使っていたという。工業会担当者は「鼻がにおいに慣れて感じにくくなると、必要以上に柔軟剤を使ってしまうことがある。注意してほしい」と話している。

◆◆◆化学物質過敏症◆◆◆ 大量の化学物質に一度に接触したり、微量でも継続して接触したりした後、同じ化学物質に再び接触することで過敏症状が出る。原因は車の排ガスや殺虫剤、たばこなどで、近年は香水や柔軟剤の香料でも発症する人がいる。せきや湿疹、頭痛など個人によって多様な症状があらわれ、治療法は確立されていない。

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