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Sunday, April 11, 2021

人情と華のあるエリアの“粋な香り”に誘われて。人形町の昭和グルメ3選。 - Pen-Online

甘酒横丁の一画にレトロな明かりを灯す「美奈福」。創業は昭和28年。現在はお持ち帰りのみで営業する手づくりおでん専門店だ。

人形町、有楽町高架下、荒木町は大人が通いたくなる華のある店が揃う。地元以外からも多くの人が訪れる粋なエリアで、心温まる昭和グルメを味わう。

日本橋・人形町の発展は、大衆の娯楽とともにあった。最盛期は、900人近い芸者が道を行き交う東京屈指の“花街”として栄えたことは有名だが、それ以前も人形浄瑠璃に寄席、大正時代に入ると西洋風のカフェが一大ブームを巻き起こすなど、最先端のカルチャーがここから多く生まれた。しかし、この街の魅力は、往年の名残というような艶っぽさではなく、どちらかといえば心がほっと温まるような大衆の暮らしの面影にあると思う。

それを感じることができるのが、かつてこの場所に甘酒専門店があったことに由来する“甘酒横丁”だ。その名前から飲食店が軒を連ねる横丁と想像しがちだが、もともとは三味線屋やつづら屋、下駄屋といったこの街ならではの“生活必需品”を扱う店が多かったと記憶をたどるのは、生まれも育ちも人形町という「久助」の村田秀章さんだ。

「夕暮れ時は人力車でお座敷に向かう芸者さんを見かけて、子ども心に憧れたりしていましたね。お忍びでチャップリンやアラン・ドロンが来たなんて噂も聞きました」と目を細める。現在、甘酒横丁にはそんな古きよき下町文化に育まれ、地元の人たちに愛されてきた店がいくつか残る。

おでんの「美奈福」に、蕎麦の「東嶋屋」も創業時からの味を守り続けている。下町の粋を感じに、昭和の香りに誘われてみよう。

美奈福──2代目店主が守り続ける、おでんの味に心も身体も温まる。 

出汁の香りに誘われるように甘酒横丁をそぞろ歩けば、路地を明るく照らす“おでん”の提灯が見える。冬場は行列ができることも珍しくない「美奈福」は、おでんの持ち帰り専門店。湯気と香気が立ち上る鍋をのぞけば、懐かしのウィンナー巻きや関東流のはんぺんと同じ材料でつくった“すじ”も。創業以来、継ぎ足しで使っているおつゆは本枯れ節と煮干しがベースで、すっきりとクリアな旨味が持ち味だ。

「ジャガイモやちくわぶの角がとれて沈殿物になるので、こまめに取り除きながらきれいな味の出汁をつくりたい」と話すのは、御年96歳の先代から店を受け継いだ女性店主。透き通った出汁や整然と並べられたタネからも実直な仕事が見て取れる。持ち帰った大根を頬張れば、口の中にじゅわりと広がる出汁の風味。東京の商店街でも対面販売の個人店が珍しくなったいま、この店の温かさが心に沁みる。

具材ごとに行儀よく並べられたおでんは、たっぷりと出汁を含み、見るからにおいしそう。大根やこんにゃくは根強い人気。

アツアツのおでんは常時21種前後。おつゆは500円につきお玉一杯まで。「多め」のリクエストは基本的に不可。

東京都中央区日本橋人形町2-11-12
TEL:03-3666-3729
営業時間: 12時30分〜18時 
定休日:日、祝、年末年始

東嶋屋──清々しい空気が流れる、昔ながらの蕎麦店は軽く一献がよく似合う。

昔ながらの街の蕎麦店といった店構えに心が和む。屋号は初代が暮らした埼玉県の地名にちなんでいる。

店内に張られた昭和初期の品書き。てんぷらそばは“金30銭”とある。コーヒー1杯が15銭の時代としては、そこそこの高級品ではあるが「東嶋屋」の初代は、東京屈指の華やかさに満ちたこの街で勝負することを決めた。先代とともに働いた女将は「夜遅くに仕込みをしていると三味線の音が聞こえたりしてね。昔は大通りには、ダンスホールや映画館があったこともあるんですよ」と往時の思い出を語る。

粋な下町の旦那衆をはじめ、近所の“家族会”や芸者さんのお腹を満たしてきた「東嶋屋」の出汁は、本枯れ節と宗田節から取ったもの。濃いめの出汁を使った肉豆腐はちょっと一杯、という気分の時のおともにもぴったりだ。時代が変わっても変わらない「蕎麦ひとつでも気軽に入れる店を」という思いをつなぐ“街の正しい蕎麦店”のカタチがここにある。

おつまみ三種盛り。¥500(税込) にしんの菜の花漬け、つみれと魚河岸揚げ、板わさと卵焼き(内容は日によって変わる)。沢の鶴¥480(税込)。

たぬき¥650(税込)。たぬきは揚げ玉に干し海老を加えるのが「東嶋屋」流。細めの蕎麦はのど越しよし。

東京都中央区日本橋人形町2-4-9
TEL:03-3666-6964
営業時間:11時30分〜15時30分、18時〜21時30分(月〜金)
     11時30分〜16時(土)
定休日:日、年末年始

久助──焼き鳥でしっぽり呑み、店主の人柄に癒やされる“味アリ”酒場。

おまかせ5本コース¥1,200(税込)。もも肉、手羽先、しし唐、つくねなど。一番人気はカリカリに焼いた皮。

祖父は八百屋、父は果物屋、そして現在は甘酒横丁の同じ場所で「久助」という焼き鳥酒場を営む。生まれも育ちも人形町という村田秀章さんが店を始めたのは、1981(昭和56)年のこと。「飲みたい時に自分たちが行きたいと思える店をつくりたかった」と国産鶏をメインに据え、刺し身や季節の一品料理も供する。

カウンターと小上がりで仕切られた店内は、古きよき昭和酒場の見本ともいえるしつらえで、親子二代で通う常連客も珍しくない。「畳やふすまははりかえたけれど造りは39年間そのまま。だから、久しぶりでも懐かしいと言ってもらえるのかなぁ(笑)」

肝心の焼き鳥は端正な見た目に違わず味も美味。砂肝やせせり、ねぎま、つくねなど種類も多数揃え、“照り”を出す感覚で一本ずつていねいに焼き上げる。一見、武骨でも、懐深い人情酒場に心が癒やされる。

長芋の千切り¥950(税込)、〆サバ¥1,200(税込)、玉子やき¥750(税込)。酒場の定番料理が揃う。人気の玉子やきは「出汁巻きだけど甘い」のがミソ。長芋は抹茶粉をあしらい、もみじ模様に。剣菱¥600(1合)や菊正宗など、酒場かくあるべしな日本酒のラインアップ。

カウンターの他に小上がりも。“焼台横”が定位置の常連客も多い 

東京都中央区日本橋人形町2-21-11
TEL:03-3639-5409
営業時間:11時〜13時15分、17時〜20時30分L.O.
定休日:土、日、祝 

※こちらは2020年12月15日(火)発売のPen「昭和レトロに癒されて。」特集よりPen編集部が再編集した記事です。
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