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Sunday, December 19, 2021

新発想の「香り」アイテムが続々 “肌を美しくする香り”は存在するか? - WWD JAPAN.com

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 コロナ禍を経て、誰もがそれぞれの立場でストレスと向き合っている今。「香り」が体と心に果たす役割は、ますます重要になるのではと感じている。香り研究はどこまで進んでいるのか?今後どのような製品が注目されるのか?下半期に登場した「既存とは一線を画する、新発想の香りアイテム」含め、香りの可能性を取材した。

検査手法の進化が解き明かす、香りと体の関係性

 香りの研究は現在、どこまで進化しているのだろうか。大学や研究機関と共同で、精油に関する研究を重ねてきた「カラーズ(COLOURS)」研究開発部の岡野利彦執行役員は、「嗅覚細胞が香りをどのように捉え、脳がどう反応するかは、すでに詳しく判明しています。ただし、それらはあくまで断片的な情報で“香りを嗅いだときに私たちの体と心がどう反応するか”の関連性については、いまだ謎の部分が多い。そういう意味で香りの研究は“これまで経験的に知られていたことを科学的に実証する”面が大きいように思います」と話す。

 「ラベンダーの香りを嗅ぐとリラックスする」という話を耳にしたことがある人は多いはず。このように経験的に知られる香りの効果は数多く存在する。

 岡野執行役員は、「近年はバイオマーカー(体の状態を評価するための指標)による検査手法が進化して、生体内物質の変化が測定可能になりました。幸福感に関してはオキシトシン、免疫に関しては分泌型IgA抗体などが用いられ、香りを嗅いだときにこれらの指標を分析することで、体の状態を客観的に知ることができます」続ける。

 バイオマーカーによる検査は、ひと昔前は血液検査が主流だった。しかし現在は、唾液による検査で、比較的簡易に精度の高い結果が得られるという。バイオマーカーによる機能性香料の開発は、一般的な化粧品においてまだ広く浸透しているとはいえないが、今後注目が高まるかもしれない。

「肌を美しくする香り」は存在するか?

 香りによって生体内物質、ひいては体の状態が変化するとしたら、「肌を美しくする香り」は存在するのだろうか。答えは「イエス」だ。すでに複数の香気成分や精油において、血流を促す効果が確認されている。岡野執行役員は、「有名なところでは真正ラベンダー、ネロリ、クラリセージなどの精油です。これらは副交感神経を優位に導くことで、全身の血流を促します。肌にも酸素や栄養が巡りやすくなるという意味で、美肌効果が期待できるでしょう」という。

 一方で、「香りを嗅ぐ」とは異なる視点で、香気成分に美肌への可能性を見出したのが資生堂である。資生堂 みらい開発研究所の堤も絵・研究員は、「触覚を担っているメルケル細胞に、実は香りに関する受容体が存在することを発見しました。この受容体にサンダルウッド様の合成香料が結合すると、メルケル細胞が活性化することが判明しています」。

 メルケル細胞には“触れた感覚”を脳や細胞に伝えるために、末梢神経が張り巡らされている。メルケル細胞が活性化すると、末梢神経はさまざまな伝達物質を放出するが、その中にはコラーゲンの生成に関与するものもあるという。

 「つまり、香りの成分を嗅ぐのではなく塗ることによって、肌のハリやうるおいが改善する可能性が示唆されたといえます」と堤研究員。この研究は2021年10月に開催されたIFSCCカンクン大会(世界で最も権威のある化粧品研究発表会)で最優秀賞を受賞している。

「合成香料」が持つ、さまざまな可能性

 資生堂は、サンダルウッド様の合成香料がメルケル細胞を活性化することを見出した。この研究が今後「肌に触れなくても、触れた時と同じようなスキンケア効果をもたらす化粧品」に繋がるとしたら、合成香料の可能性に期待せずにはいられない。さらにカラーズからも、これまでにない発想で合成香料を用いた製品が登場している。

 「11月4日に登場した『サウザンドカラーズ(THOUSAND COLOURS)』の“エクスペリエンスシリーズ”は、香りが特定の記憶や感情を想起させるプルースト効果に注目したフレグランスです。100%合成香料で構成し、時空を越えて“希望を抱ける場所”へと誘うことを目的としています」(岡野執行役員)。

 例えば“E0834 HIDDEN BEAUTY”は、アガーウッドやサンダルウッドの合成香料によって演出した、沈香のような香り。平安時代のみやびで神聖な空気感を体験できるという。岡野執行役員は、「天然の香りを合成香料で全て再現するのは、現在の技術では難しい。その一方、感情に訴えるという意味で合成香料は、狙った香りの再現や製品のコンセプトを表現しやすい利点があるでしょう」。

ストレス時代に寄り添う注目の香りアイテム

 香りの研究がさまざまな角度から進化する中で、21年下半期は既存の化粧品やフレグランスの枠を越えた、新発想の香りアイテムが登場した印象だ。以下に代表的なものをご紹介したい。

精油×合成香料を駆使して「希望」を表現するフレグランス

 1つめはカラーズの「サウザンドカラーズ」、3つのシリーズからなる新発想のフレグランスブランドである。前述の合成香料100%により記憶や感情に働きかける“エクスペリエンス”、精油100%により体の機能に働きかける“アクティベート”、合成香料と精油のハイブリッドで体と心の両方に働きかけ歴史上の偉人を追体験する“メタモルフォーゼ”の3シリーズだ。“アクティベート”はディフューザーのみ、“エクスペリエンス”と“メタモルフォーゼ”は、オードパルファンを中心に、主要な香りにのみディフューザーを展開している。「香りによって人や未来を変えることが出来るのか?」という壮大なテーマのもと、未来への希望を表現した斬新なフレグランスである。

切れ目のない多忙な1日に「オン」と「オフ」の切り替えを

 10月に登場した「スリー(THREE)」の“バランシング SQ シリーズ”は、保湿から一歩踏み込んだ、ライフスタイルに寄り添うスキンケアだ。製品名のSQはSleep Quality(= 睡眠の質)を意味する頭文字。多忙な現代人が良質な睡眠を得るために、注目したのは「1日の中で、オンとオフを上手に切り替えること」。オンのシーン向きの製品にはハッカ水など前向きな気持ちへと導く精油や植物素材、オフのシーン向きの製品にはマジョラム油など鎮静作用のある精油や植物素材を配合。香りはそれぞれの天然素材が織りなす、自然な芳香にこだわった。アイテムは、小型サイズのミスト2種とリップケア2種。会議前にオンの“SQミストA”をひと吹きしたり、睡眠前の唇にオフの“SQリップバーム”を塗るなど、いつでもどこでも取り入れやすいのも魅力といえる。

コロナ後の未来に寄り添う、新たな香りアイテム

 香りは現在美容分野に留まらず、商業施設の空間演出や、医療分野で痛みの緩和に用いられることもある。今後どのような分野で、活用される可能性があるだろう?

 カラーズの岡野執行役員は、「近年の研究では“嗅覚と視覚の繋がり”が判明しています。21年情報通信研究機構(NICT)の発表によると、レモンの香りを嗅ぐと物体の動きが遅く見えることが分かったそうです。この研究は、例えば野球などのスポーツで打者のパフォーマンス向上に応用できる可能性があります。香りにより日常生活やここぞという場面で、人の力を最大化する未来がやってくるかもしれません」。

 ちなみに「肌や体に有効な香り」が「心地良く感じる香り」かというと、それはまた別問題であるという。バイオマーカーのスコアが良くても香りがイマイチなものもあれば、反対のケースもある。香りは人が嗅覚で感じる以上、調香には“人の感覚”を駆使しながら、機能性との両立を追求する必要がある。

 岡野執行役員は、「香りが生体に及ぼす機能と、情緒に働きかける機能、そして香り自体の心地良さも含めて“何ができるのか”を常に考えています。約2年に及ぶコロナ禍を経て、現在世界中で孤独感や他者に対する不寛容など、負の感情に傾く人が増加している。香りの力でストレスとどう向き合っていくかは、今後の大きなテーマです」と締めくくった。

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