約8000キロ離れた南太平洋・トンガ沖の海底火山噴火が引き金となって国内の広い範囲に出された津波警報と津波注意報。気象庁は当初「津波の被害は心配ない」と発表していたが、約5時間後に一転。対応に追われる太平洋側沿岸部の自治体には戸惑いが広がった。いったい何が起こっていたのか。
「被害の心配ない」から一転
「いきなりの発表だったので慌てた」「メカニズムが分からないのに……」。16日未明の津波注意報・警報を受けて避難指示を出すなどした自治体の関係者からは当惑の声が聞かれた。
海底火山の噴火は日本時間の15日午後1時過ぎに発生。気象庁は同7時ごろに「若干の海面変動が予想されるが、被害の心配はない」との予報を発表した。だが同11時ごろから津波の観測が相次ぎ、潮目が変わる。気象庁は日付が変わった16日午前0時15分に奄美群島・トカラ列島に津波警報、太平洋沿岸の各地に注意報を一斉に出した。同2時26分に久慈港(岩手県)で1・1メートルの津波が観測され、28分後には警報の対象に岩手県を追加した。
気象庁によると、海外の火山噴火による津波が日本に到達した例は過去に確認されていない。宮岡一樹・地震情報企画官は記者会見で「メカニズムについては分からない」と繰り返し強調。その一方で、各地の警報・注意報は午後2時までに解除された。
「メカニズムが分からないのに、なぜ東北で岩手だけに警報が出たのか。なぜ注意報もなかなか解除されなかったのか。科学的な根拠は何なのか……」。岩手県釜石市の担当者は首をかしげる。当面は潮位の変化への警戒を続けるという。
2011年の東日本大震災で甚大な被害を受けた東北地方では、沿岸の多くの自治体が15日の段階で特別な防災態勢を取っていなかった。それでも、深夜に全国瞬時警報システム(Jアラート)の防災行政無線で注意報の発表を知ると、続々と職員が役所に駆けつけた。自治体は未明から次々と避難所を設置し、一時は多数の住民が身を寄せた。
毎日新聞の取材に対し、0・7メートルの津波を観測した福島県いわき市など多くの自治体は「大きな混乱はなかった」と答えたものの、宮城県女川町の担当者は突然の注意報に「東日本大震災を思い出した」と心境を吐露した。
気象庁は津波警報・注意報をいずれも解除したが、自治体は必ずしも安全・安心が得られたとは考えていない。岩手県陸前高田市は注意報の解除を知らせる防災無線で、自主的に「今後も海面変動に注意を」という内容を盛り込んだ。直後に開いた市の対策本部会議では、担当職員が海面への影響について情報収集を続ける方針が示された。市防災課の担当者は「メカニズムが分からないなら、今後も何か異変が起こるかもしれない。念のため警戒は続けなければ」と説明する。
宮城県南三陸町の担当者は「遠隔地の地震ならば(津波被害を)想定できるだろうが、まさかの『噴火』だった。専門家も予測の難易度が高いのだろう」と一定の理解を示す。一方で、岩手県大船渡市の担当者は「同じことが起きないようにしてほしい。今回の出来事が予測技術が進化するきっかけになればいい」と改善に期待した。【黒川晋史、藤沢美由紀、谷本仁美、遠山和宏】
空と海共鳴 高さ増幅
トンガ沖の海底火山噴火に伴い発生した津波には二つの不思議な特徴があ…
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