食パンの耳、コーヒーのかす、店で余った白米…。通常なら廃棄される食材を原料として、お酒をつくる動きが広まっている。夏本番に向け、飲酒の機会も増える時期。食品ロスを減らす、「地球に優しいお酒」も選択肢に入れてみては? (熊崎未奈)
「こちらは酒かすから、こちらはビールからつくったジン。香りの違い、分かりますか?」。東京都台東区に本社を置く「エシカル・スピリッツ」の最高執行責任者(COO)、小野力さん(27)が直売店にずらりと並ぶジンのボトルを前に、説明してくれた。
二〇二〇年二月に創業した同社が手掛けるのは、廃棄食材から蒸留するクラフトジンだ。最初に開発したのは、全国の中小規模の酒蔵で出た酒かすから蒸留した「かすとり焼酎」を原酒にしたジン。小野さんは「大手酒蔵では小売店に酒かすの販路を持つ場合もあるが、中小の酒蔵では活用先が少なく、大量に廃棄される現状があった」と話す。
日本酒の吟醸香に加え、原材料に使ったラベンダーやハイビスカス、シナモンなどの華やかな香りがするジンは、昨年の英国の品評会で最高賞を受賞するなど、人気を集めている。
二〇年夏には、コロナ禍で余剰になったビールから蒸留したジンを発売。飲食店での酒類提供が規制され、廃棄される予定だったビール二万リットルが四千五百本のジンに生まれ変わった。
使う廃棄食材ごとに蒸留回数や香り付けを変えるなどして工夫し、本社内の蒸留所で週に二千〜三千本分を製造する。コーヒーを抽出した後に残るかすや、チョコレートの製造時に出るカカオ豆の皮を香り付けに使用したジンなど、現在は八種類を各地の百貨店などで販売(三百七十五ミリリットルで二千四百七十五〜五千五百円)。期間限定の商品も多数出している。小野さんは「ジンはアルコール度数が四〇度以上と高いため消費期限がない。廃棄食材から再び食品ロスを発生させないという狙いもある」と話す。
廃棄食材からつくられるお酒はジンだけではない。大手酒類メーカーでは、沖縄県のオリオンビールが昨年六月、サイズが大きいなど出荷の基準に満たない規格外の地元産「キーツマンゴー」を使用したチューハイを数量限定で発売した。
アサヒグループホールディングス傘下のアサヒユウアス(東京)は昨年夏から、廃棄予定の食材を使ったビールを開発し、飲食店で提供している。愛知県豊田市のお茶農家で茶葉を加工する際に生じる茎や、千葉県山武市のイチゴ観光農園で余ったイチゴを使ったビールなど、これまでに五種類を発売している。
余剰食品の再利用に取り組む企業クラストジャパン(大阪)は昨年三月、食パンの耳を原料に使ったクラフトビール(三百三十ミリリットル六本で三千七百四十円)を発売。大手パンメーカーの工場から、サンドイッチを作る過程で廃棄されるパンの耳を仕入れ、ビールの原料となる麦芽と混ぜて醸造している。ビール二本の醸造で、食パン一枚分の食品ロスを減らせるという。
関西地方に展開するカレー店と連携し、店舗で廃棄される白米を使って醸造したビールを、再び店舗で提供する取り組みも進めている。クラストジャパンのゼネラルマネジャー吉田紘規さん(37)は「廃棄食材を肥料や飼料にするだけでは再利用に限界がある」と指摘。「新たな価値をつけることでより食品ロスを減らせるのではないか。環境に優しいだけでなく、おいしいという価値のあるお酒を提供していきたい」と話す。
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