映画「きみの瞳が問いかけている」(主演 吉高由里子、横浜流星)が10月23日(2020年)に公開される。視力を失くした女と、夢を失った男。「小さな勘違いから出会った二人は惹かれあい、ささやかながらもかけがえのない幸せを手にした――かに見えた」。そして帯にはこう書かれている。「愛しているから、別れを選んだ――」。
本書『きみの瞳が問いかけている』(宝島社文庫)は、映画「きみの瞳が問いかけている」の完全ノベライズ本。この映画の原作は、韓国映画「ただ君だけ」(2011年)。「ただ君だけ」は、チャールズ・チャップリンの名作「街の灯」(1931年)をモチーフにした純愛ストーリーであり、当時多くの観客が涙したという。
韓国と聞くと、慰安婦問題、徴用工問題、竹島問題がパッと頭に浮かぶ。先日のNHKニュースでは「日韓共同の世論調査『関係悪い』 日本側55% 韓国側88%」と出ていた。一方、日本で韓国の小説『82年生まれ、キム・ジヨン』が話題になったり、K-POPは依然人気だったりもする。日韓関係が「過去最悪」と言われる中でも、そことは切り離して、日韓の文化交流は続いているのだと再認識した。
出会いは「小さな勘違い」から
主人公・篠崎塁は24歳。元キックボクサー。左手にタトゥーを消した大きな傷が残る。ある事件により、懲役三年五か月の実刑判決を受けた。キックボクサーとしての未来を絶たれ、出所後は駐車場の管理人の仕事に就く。「動物みたいなもんだ。目的も何もなく、ただ生命活動をしてるだけ」と、内面はささくれだっている。
もう一人の主人公・柏木明香里は29歳。大学時代に彫刻を専攻。しかし、四年前の事故により視力を失った。現在、通販会社のカスタマーセンターで点字ディスプレイ付きのパソコンを使用し、オペレーターとして勤務。主任からのセクハラ被害に遭っている。
共通点のなさそうな二人が出会ったのは、塁が勤務する駐車場の管理人室。明香里は前の管理人のおじさんと親しく、これまでどおり一緒にドラマを観よう(聴こう)と「もう始まってる?」と声をかけてきた。「お饅頭と、みかんと......」と、明香里は前を向いたまま、ひとつひとつ手で確かめるようにしながら取りだす。塁のことを前の管理人と思いこんでいたが、ふと動きを止め、鼻で息を吸いこんだ。「誰!? ですか?」。
塁が事情を説明すると、「どうも失礼しました」と言い、明香里は管理人室を出た。雨の中、明香里の右手に傘はなく、代わりに白い杖が握られていた。その様子を見た塁は「雨、降ってるし」「観たいなら、どうぞ」と声をかけ、二人は管理人室で一緒にドラマを観る(聴く)ことになった。「小さな勘違い」から出会った二人は、そこから互いを意識するようになる。
四年前のクリスマス
塁が自身を多く語らないこともあり、明香里はしばらく塁のことを「おじさん」と呼んでいた。こんなやりとりも。
「声に元気がない。全体的に、とっても疲れてる。いっぱい苦労してきた感じ」「なにどしですか?」(明香里)
「......ネズミ」(塁)
「え、今年? てことは四十八?」「ああごめんなさい、三十六だ」(明香里)
(違います、まだ二周しかしてません。)(塁の心の声)
塁と明香里の視点から交互に語られ、物語は進行する。ほのぼのとした淡い恋愛模様がしばらく描かれている。しかし、塁の背負う過去が二人のしあわせにじわじわと影を落とす――。
塁は、親に棄てられ施設で育った。暗い世界に沈みこんでいき、地下格闘技(腕自慢の連中が金目当てで集まる賭博試合)に出場するようになった。まっとうなボクシングジムに拾ってもらってからも、出続けた。同じ施設の出身者が格闘技の主催者であり、半グレ集団のリーダーでもあったことから、塁もその一員に。そして四年前のクリスマス、ある事件で逮捕された。刑期を終えた現在も「あの世界から完全に抜けられる日なんて、永遠にこない気がする」と、不気味な予感がしていた。
同じく四年前のクリスマス、明香里は両親を乗せた車を運転していた。「そのとき、視界の端っこが急に明るくなった。顔を向けると、車道沿いのビルから大きなものが燃えながら落ちてくるところだった」。直前にハンドルを切ったが間に合わず、両親は即死。明香里は視力を失った。
これは明香里が誰にも言わずにいた、自身の失明にまるわる秘密。明香里の告白を聞いた塁は、自分だけが知る「あまりに残酷な運命の因果」に気付いてしまった。じつは当時、塁はその事故現場を......。
「俺がどんな人間なのか知ったら。......きっともうあんな笑顔は向けてくれないはずだ」
塁の事件と明香里の事故という過去の影が、二人を引き裂いていく──。ネタバレにならないよう注意しながら、映画の公式サイトに掲載されている範囲ギリギリのところまで紹介してきたが、ここで止めておこう。
「心の目を持っている」
最後に、物語の本筋とはずれるが、視覚障害を持つ人と近くで支える人、それぞれの心境が描かれている部分を紹介したい。
「視力を失うと、多くの人はまず希望も失う。私もそうだった。でも、年月が経つにつれてわかってきた。見えなくてもできることは意外に多い。新人障碍者の私たちには、長い歴史のなかで洗練され尽くしたノウハウが与えられている。覚えれば覚えるほど、見えない生活に早く慣れる。専用の道具だっていろいろ開発されているから、その気になればいくらでも変化に富んだ生活を送れるのだ」(明香里)
「普段は気にも留めない障害物の多さに驚いた。舗道から横断歩道へ移るときの段差。無意味に張りだしているガードレール。点字ブロック上に無遠慮に置かれた自転車や立て看板。......そばにいる人、通り過ぎていく人が、けっこうな割合でじろじろ見る」(塁)
「明香里は心の目を持っている」という塁の言葉どおり、明香里は、聞く、嗅ぐ、触るなど、持てる感覚を駆使して見えないものを感じようとしている。
ちなみに評者は小学生のころ、盲ろう者として初の東大教授に就任した福島智さんにお会いしたことがある。福島さんの母親が考案した「指点字」。タイプライターのキーを打つように、通訳者は福島さんの指を高速でタッチして言葉を伝えていた。それに対して、福島さんは声に出して答えていた。目と耳が不自由であっても、こうした方法で意思疎通できるのか、どれほど感覚が研ぎ澄まされているのかと、心底驚いたのを覚えている。まさに「心の目」、さらに「心の耳」を持っているということなのだろう。
著者の沢木まひろさんは、1965年東京都生まれ。青山学院大学文学部日本文学科卒業。2006年『But Beautiful』で第1回ダ・ヴィンチ文学賞優秀賞、12年『最後の恋をあなたと』(のちに宝島社文庫『ビター・スウィート・ビター』)で第7回日本ラブストーリー大賞を受賞。主な著書に「44歳、部長女子。」シリーズ、『二十歳の君がいた世界』(ともに宝島社文庫)など。
脚本の登米裕一さんは、1980年島根県生まれ。大阪府立大学在学中に演劇ユニット・キリンバズウカを立ち上げ、脚本・演出を担当。脚本家としてドラマ、映画、舞台と幅広く活動。主な作品に映画「チア男子!! 」、「くちびるに歌を」、連続ドラマ「人生が楽しくなる幸せの法則」、「僕の初恋をキミに捧ぐ」(スピンオフ)、「おかしの家」など。
本書の冒頭8ページには、映画のシーンのカラー写真も掲載されている。映画を観る前にイメージを膨らませておきたい人、鑑賞後に再び映画の世界に浸りたい人におすすめだ。
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October 22, 2020 at 05:14AM
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視力を失くした女と、夢を失った男。二人の純愛の結末は―― 『きみの瞳が問いかけている』 | J-CAST BOOKウォッチ - BOOKウォッチ
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