東京・東池袋で車を暴走させて横断歩道の母子を死亡させ、男女8人と助手席の妻に重軽傷を負わせたとして、旧通産省工業技術院長の男に禁錮5年の実刑判決が言い渡された。今後、どのような展開が見込まれるか――。
拘置所や刑務所への収容は?
男は車に何らかの異常が生じたから暴走したと述べ、無罪を主張していた。しかし、裁判所はこれを一蹴し、車の異常ではなく、男がアクセルとブレーキを踏み間違えた過失が原因だと認定した。
もっとも、今回の実刑判決により、男が直ちに拘置所や刑務所に収容されるわけではない。保釈中であれば保釈の効力がなくなるが、そもそも男は逮捕、勾留されず、在宅のまま起訴され、判決に至っているからだ。
男が実際に収容されるのは、実刑判決が確定したあと、検察官から呼出しを受け、その執行指揮に基づいて執行されるときだ。それまでは、自宅などで自由に生活できる。
しかし、現時点で男は90歳と高齢であるうえ、健康を害している模様だ。今後、有罪判決の確定までに時間を要すると、刑務所に収容されないで終わるかもしれない。
というのも、あまり知られていないが、病気療養や手術などやむを得ない事情があれば、確定後に検察官に対して「執行延期」の申立てができ、実際に延期されることもあるからだ。しかも、収容前に死亡すれば、「執行不能」の決定を下すことになる。
いったん収容されても、服役の途中で釈放される可能性もある。心神喪失の状態になれば、回復するまで必ず刑の執行を停止する決まりだからだ。数は少ないが、末期ガンで余命わずかであるなど、生命を保てないおそれがある場合には、検察官の審査を経て、執行を停止することが可能な制度にもなっている。
弁護・検察双方の控訴はある?
そうすると、男は無罪を主張してきたわけだし、結論を先延ばしにするためにも、控訴することが考えられる。もし高裁で棄却されても、さらに最高裁に上告することになる。
その間に男が天寿を全うできれば、刑務所への収容どころか、有罪・無罪の結論が確定しないまま、裁判の打切りに持ち込める。控訴の理由は、過失を認定した「事実誤認」に加え、禁錮5年を選択した「量刑不当」になるだろう。
この点、禁錮5年でも軽いと思う人もいるかもしれない。現に検察側は、法定の上限年数である禁錮7年を求刑していた。しかし、それでも裁判所の判断は、従来の量刑相場からやや踏み込んだものとなってる。
それこそ、この件と同じ時期にJR三ノ宮駅前で発生した同様の事故の場合、求刑は禁錮5年、判決は禁錮3年6ヶ月の実刑だった。市営バスを運転中、アクセルとブレーキを踏み間違え、歩行者の列に突っ込んで2人を死亡させ、4人に重軽傷を負わせたというものだ。
今回の男は、現在、遺族から民事裁判で損害賠償を請求されている。その結果や和解内容、賠償金の支払状況などによっては、控訴審で減刑されることもあり得る話だ。
一方で、禁錮7年を求刑していた検察側が逆に「量刑不当」で控訴することは考えにくい。判決では検察側の主張がおおむね認められているし、控訴すれば結論の先延ばしに手を貸すことにもなるからだ。ただし、その場合、高裁が有罪を認定しても、一審の量刑以上の判決が下ることはなくなる。
勲章はどうなる?
男は2015年に「瑞宝重光章」を受章している。検察で言えば、全国に8つしかない高検の元検事長に与えられる勲章だ。しかし、禁錮3年以上の実刑判決が確定すると、この勲章は必ず剥奪されて返還を要し、受章の事実を語ることも許されなくなる。
これに対し、控訴審で禁錮3年未満の実刑に変更されるか、禁錮3年以下で執行猶予が付されて確定した場合、必ず剥奪されるということはなくなり、情状により剥奪できるという限度にとどまることになる。
こうした勲章の剥奪は、年齢や健康状態などに基づく刑務所への収容の可否とは無関係に行われる。名誉の失墜や社会的制裁という観点からは、禁錮5年の実刑判決が確定するか否かが重要となる。
一審とは別の裁判官の判断を仰ぐのは被告人の当然の権利だし、弁護人も控訴できる。しかし、控訴は本人の明示した意思に反して行えない決まりだから、男が一審判決を受け入れて控訴しないという心境に至るか否かで結論が変わる。
裁判長は、男に対し、判決が納得できるのであれば、過失を認めて真摯に謝罪してほしいなどと説諭した。遺族もそのラストチャンスだと呼びかけている。今後の男の対応が注目される。(了)
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