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Sunday, February 20, 2022

<ひと ゆめ みらい>都市と農村の接点つくる 「香り湯プロジェクト」などを企画・老沼裕也さん(33)=足立区 - 東京新聞

 足立区内にある二十七軒の銭湯が定期的に旬の果物などを湯船に浮かべる「香り湯プロジェクト」。各地から取り寄せた、かぼすや夏みかんの香りが楽しめる。食べ物としては商品にならない規格外の果物を有効活用した人気企画の仕掛け人だ。

 代表を務める合同会社「ひとつやねのした」は、農業による地域活性化を目指し、さまざまな企画を提案する。足立区にある築八十年の古民家で月一回、各地から仕入れた農産物を販売する「古民家野菜日和」も開催。「農産物や農村の魅力を東京の人々に広めていきたい」と夢を語る。

 二十歳のころ、海外に憧れ、カナダやオーストラリアで過ごした。現地での生活は充実していたが、二十四歳の時にパニック障害を発症。帰国を余儀なくされた。

 突然襲われる息苦しさの恐怖で、精神的に追い込まれたが、無理に社会復帰を促さない両親や親友の支えで少しずつ回復。一年後、足立市場にある青果流通の会社に就職した。

 仕入れのため訪れた市場で、色鮮やかで多様な味わいの野菜に魅了された。野菜の知識を吸収する中で、国産野菜が海外産との競争にさらされている現実を知った。「このままでは国内の農業が衰退する。農家のリアルな声を聞き、課題を見つけたい」と二十九歳で退職。車に作業着と布団を積んで、全国の農家を回る旅に出た。

 知り合いもいない中、現地のJAで地元農家を紹介してもらったり、畑で作業中の農家に声をかけたりして、作業を手伝いながら、話を聞いた。十カ月ほどかけ九州から北海道まで回り、五十〜百人ほどの農家とつながった。

 旅を終え、改めて「日本の農業に魅了された」。地域に根付く品種や独自の栽培方法…。多様性あふれる日本の農業の魅力を「東京で伝えたい」と二〇一八年二月、事業を始めた。

 香り湯プロジェクトは銭湯への集客、規格外の農産物の有効活用だけにとどまらなかった。一九年秋の豪雨で被災した長野県のリンゴ農家のため、銭湯の店主らは客に寄付を募り、被災農家が作ったりんごジュースを銭湯で販売するなど支援の輪が広がった。

 「都市と農村が支え合う交流が生まれた」と振り返る。「一方通行ではなく、お互いが支え合う関係が大切。今後も都市と農村、消費者と生産者の接点を作っていきたい」と話している。(西川正志)

<おいぬま・ゆうや> 埼玉県川口市出身。高校を卒業後、海外での生活に憧れてカナダへ渡る。2018年5月に足立区弘道1の古民家に移り住み、事務所としても活用。各地の農家と企業をつなぎ、耕作放棄地の活用にも取り組んでいる。

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