2007年、パリでデビューするやいなや大きな話題を呼び、フランス香水界に新たな旋風を巻き起こした「キリアン」。日本上陸は、2018年。ユニークで斬新な香りが瞬く間に人々を虜にし、もはや押しも押されもせぬ、トップのフレグランスメゾンだろう。創業者は、世界的に有名なコニャックメゾンに生を受け、その血筋に脈々と流れる才能とビジョンをパルファムの世界で開花させた「香りの貴公子」、キリアン・ヘネシー。新フレグランス「キャント ストップ ラビング ユー」誕生を記念し、来日した彼に話を聞いた。(インタビュー&文・松本千登世)
キリアン・ヘネシー|Kilian Hennessy
世界的なコニャックメゾンとして知られるヘネシー家に生まれ、幼少期はフランス南西部にあるヘネシー家の城で、コニャックセラーに漂う砂糖、アルコール、バニラが染み込んだ木製樽の芳醇な香りに包まれ育つ。ソルボンヌ大学卒業後に香りの世界へと導かれ、ジャック・キャヴァリエ、ティエリー・ワッサー、アルベルト・モリヤス、カリス・ベッカーら、フレグランス界トップの調香師たちに徹底的なトレーニングを受け、才能とビジョンを開花。2007年、自身の名を掲げたブランド「キリアン」を設立し、伝統的なフレグランスの定石を覆すような独自のクリエイションを展開する。
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“不完全さ”にこそ恋をする。
まず、心を鷲掴みにされたのは、「キャント ストップ ラビング ユー」というロマンティックなネーミング。この名には、「人は完璧さに惹かれて恋をするのではありません。素敵な人に魅了されたとしても、最終的に恋に落ちる理由はそこではありません。恋をするのは、その人の不完全な部分や、自分にとって特別に映る部分なのです」という、「真の愛の告白」が込められているのだという。
「フランスの雑誌などでたまに見かけるのですが、世界で最も完璧な美貌を作るべく、完璧とされる人の目元、完璧とされる人の口元、完璧とされる人の鼻、完璧とされる人の輪郭など、何人かの俳優やモデルの完璧なパーツを組み合わせて『フォトモンタージュ』を作ると、実は、まったく魅力的じゃない顔になるという……。思えば、鼻が完璧な形だから、その人を好きになるなんてことはないですよね? 完璧な美貌に惹かれることはあっても、それが恋に落ち、愛が継続する理由にはならないんです」
「香りの貴公子」とも呼ばれるキリアン・ヘネシー。3,000を超える膨大な原料ライブラリーを収集し、いかなるフレグランスの配合も完璧に嗅ぎ分ける嗅覚を身につけている。
完璧を求めることはできても、完璧に達することは決してできないと、キリアンは言う。人は不完全さに惹かれるもの。欠点こそが、個性。その例として、モデルであるシンディ・クロフォードのエピソードを挙げた。
「シンディがモデルとしてのキャリアをスタートして間もない頃、エージェントに唇の上にあるほくろを取るよう言われ、聡明な彼女が『ノー』と言ったというのは、つとに有名な話。でも、誰もが知るとおり、のちに彼女は世界的なスーパーモデルとなった。それまでのモデル業界では『欠点』とされていたほくろが、彼女にしかないチャームポイントととなり、私たちはこんなにも魅了されたわけです」
香りも同じなのだと、キリアンは言う。完璧なフレグランスが私たちを魅了するとは限らない。むしろ完璧すぎると、フォトモンタージュ同様、魅力的ではなくなってしまう場合があるのだ、と。
「『不完全性』は、私の香りを作るための重要なポイントとなっています。ある原料を過剰に配合し、全体のバランスをあえて崩すことで、記憶に残る、記憶が続く、ずっと忘れられない香りになる……。人はアンバランスな香りに惹かれるから? いや、そうではなくて、不思議なもので、バランスが悪いところを無意識のうちに私たちは覚えていて、その人を見る目が変わり、『個性』と捉える。そして気になって仕方がない……、いつまでも忘れられない香りというのは、そういう意味です」
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二面性を持つ香りの秘密は?
実際、纏ってみると、「気になって仕方がない」理由がわかる。惑わされているのに惑わし、天真爛漫なのに力強く、一瞬でいて永遠の感情が表現されているよう……。香りと自分自身が交錯する中に、「光」と「影」のコントラストが見えて、昼に纏えば透け感や抜け感になり、夜に纏えば神秘的な奥行きになる。その秘密を聞くと、「二面性を表現するために、もともと主要な3つの香料を決めていたんです」と、キリアン。
「ひとつは、香りの中心となっているオレンジブロッサム。オレンジブロッサムは、ロマンスの象徴としてさまざまな文学作品にも登場するロマンティックな花の代表格で、実は子ども用のフレグランスにも使われるほどイノセントな香りです。次に、シスタス ラブダナム。コントラストや二面性を常に求めている私は、オレンジブロッサムと対比させてダークなイメージを表現したいと思い、そこで、アニマリックでエロティックな側面を持っていて、香水の原料の中で最も官能的なもののひとつといわれるこの香料を選びました。そして、新たに採用したハニー。グルマンな香りを加えることで、より複雑な官能性を演出したのです。ちなみに今回、コラボレーションした調香師は、アルベルト・モリヤス。25年来の友人で、信頼し合っているアルベルトは、センシュアルな香りを作るのが得意だから、『あなたが恋しくて仕方がない』気持ちを表現するのにベストなパートナーでした。ちなみに、『キャント ストップ ラビング ユー』のほかにも、イノセントな側面をより強くしたもの、ダークな側面をより強くしたものなど、さまざまな不完全性を表現した香りが揃っているので、自分の感性に訴えかけるものを、ぜひ纏ってほしいですね」
感覚的にも視覚的にも気分を高揚させる、キリアンの香りの世界。リフィラブル(詰め替え可能)なボトルや、コフレ、トラベル スプレィ ケースなどにも彼のラグジュアリーなヘリテージとストーリーテリングが投影されており、コレクションとして集めたくなる。
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究極のラグジュアリーは、サステイナブルに通ず。
実はキリアン、ブランドの誕生当時から、まるでアートのような、まるでオブジェのような、職人の手仕事によるボトルにこだわっている。それは、「一生大切にしてほしい」「受け継がれるものであってほしい」との思いから。真のラグジュアリーは、永遠。つまり、ラグジュアリー=サステイナブル。未来を予言していたかのように、最初から本質を突き、その姿勢を貫いているのだ。
「ラグジュアリーとサステイナブルは、『両輪』だと思っています。『キャント ストップ ラビング ユー』のボトルは、側面はマットなホワイト、正面は光沢のあるホワイトを使用。真鍮のプレートに製品名とブランド名を繊細な線で彫るというエングレービングを施して、その後、その細かい文字に注射器でエナメルを埋めて焼き付けています。それはそれは緻密な作業で、ひとつひとつのボトルが出来上がっているんです。こんなに丹精込めて作ったのに、中身を使い切ったから捨てられてしまうなんて考えられない! 僕にとってのこのボトルは、一生大切にしてもらいたいという、目に見える『メッセージ』にほかなりません。ちなみに僕が幼い頃、祖母は美しいボトルに入ったフレグランスを使っていて、なくなると、そのボトルをお店に持って行ってリフィルを購入していました。キリアンの香りにもリフィラブルなものがありますが、いま僕たちがしていることは、むしろ、原点に立ち戻ること。ラグジュアリーの本質だと思っています」
ボトルサイドに刻印されているモチーフは、ギリシャ・エトルリア様式のモチーフであるアキレスの盾。キリアンの「パルファムはお守りである」という信念が込められている。
ボトルに触れるところから、香りは始まっている。視覚で触れ、触覚で感じ、そして、嗅覚へ。全身に満ち満ちるラグジュアリーが、ここにあるのだ。そして、キリアンの「これから」について聞くと、茶目っ気たっぷりに、こう語ってくれた。
「すでに新たな挑戦がスタートしています。来日? はい、それが叶うといいですね。大好きな日本に再びやってくる『口実』にしたいなあ、って(笑)」
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恋い焦がれる気持ちを香りで体験。
平穏な心をかき乱し、虜にさせるフローラルの香り。キリアン・ヘネシーと調香師アルベルト・モリヤスが生み出した「キャント ストップ ラビング ユー オード パルファム」は、キリアンのザ ナーコティック コレクションに新しく加わるフレグランス。
キャント ストップ ラビング ユー オード パルファム 50ml ¥32,780/ブルーベル・ジャパン
ヨーロッパの結婚式で花嫁の髪飾りによく使用され、永遠の愛を象徴するオレンジブロッサムが香りの中心。そしてジャスミン調の香りをもつパラディゾンが楽園を思わせる香りを放つ。ハートノートはキリアンが新たに採用したプロヴァンス産ハニーの甘美さと、シスタス ラブダナムの重厚なアンバー香。ラストノートではマダガスカル産バニラがグルマンノートに奥行きと喜びを、オークモスが素朴な力強さを感じさせ、インセンスの官能的で豊潤、神秘的な香りが余韻を描く。その世界観を、ムービーでも楽しんで!
からの記事と詳細 ( キリアンの香りに私たちが魅了される理由。|Beauty|Beauty|madameFIGARO.jp(フィガロジャポン) - フィガロジャポン )
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