テレビに映る料理のにおいを、お茶の間に届ける-。そんな未来を可能にする技術を、兵庫県三木市などに拠点を置くベンチャー企業「香味醗酵」が開発した。人間の鼻がにおいを感じる仕組みをセンサーで再現。「におい」を数値データ化し、離れた場所で同じにおいをつくり出せるようにした。関連技術で既に複数の国際特許を取得したという。認知症の早期発見、防虫剤の開発など、応用可能な分野は限りない。(小西隆久)
同社は2017年、大阪大の教授やデザイナーらが創業。三木市が企業誘致のために募った企業版ふるさと納税の寄付金で補助金を提供する事業に採択され、23年10月に同市志染町へ本社機能の一部を移転した。
同社の久保賢治社長(57)によると、ヒトの鼻の粘膜には、においの成分と結合して情報を脳に伝える嗅覚受容体が約400種類あり、反応するにおいや反応の程度は受容体ごとに異なる。今回の技術では、どの受容体がどのように反応したかを視覚的に捉えることで、においの数値化に成功したという。
反応を可視化させる仕組みはこうだ。においの成分が受容体に結びつくと、細胞内にイオンが流入する。そのイオンに蛍光色を付けると、反応が強い場合は流入するイオンが多く、明るくなる。反対に弱ければイオンが少なく、光も弱くなる。その強弱を計測して数値に置き換える。
においを測定するセンサーは、人工の「鼻」。1辺0・5ミリメートル四方のマス400個を配置したガラスプレートに、ヒトの鼻の細胞を敷き詰める。「ヒトが感じるにおいの成分は約40万種類。全てを感知できる人工センサーは開発できないので、約400種類の嗅覚受容体だけで全てのにおいを感じ取るヒトの鼻を再現した」と久保社長は説明する。
この技術を使えば、自然のにおいを人工的に再現できる。例えば、かつお節のにおいで刺激を受ける鼻の受容体10種程度に狙いを絞り、反応を計測。同じ反応を促すにおい成分を数種類組み合わせることで、かつお節がなくても同じ香りが再現できるという。
においの感じ方を数値に置き換えてデジタル化できれば、光や音のように電送できる。電送先に複数のにおい成分を組み合わせる装置があれば、データを基ににおいを再構成し、その場に拡散できる-。久保社長が考える「においが出るテレビ」の仕組みだ。
においの感じ方のデータは、認知症の兆候を発見する手がかりにもなる。人間がにおいを感じる上で最も大切とされる数種類の嗅覚受容体があり、この受容体がにおいに反応しなくなれば認知症の兆候とみられるという。それを簡単に検査できる手法も研究中だ。
このほか、特定の害虫が嫌がるにおいの虫よけを人体に無害な成分で作ったり、悪臭に反応する受容体と結合し、嫌なにおいを感じさせなくする消臭剤を開発したりできるという。
■嗅覚、デジタル化「最後の領域」
仮想現実(VR)技術を生かした製品やサービスが続々と登場する現代。視覚、聴覚など人間の五感のバーチャル化に向けた技術開発が世界で活発化する中、嗅覚はデジタル化の「最後の領域」として注目されている。
これまで、においの感じ方を判断する方法は、ヒトの鼻による「官能試験」が主流で、約40万種類にも上る膨大なにおい成分の数値化は難しいとされてきた。さらに、従来のセンサーも「感度の安定性が高い一方で、測定できる成分は限られていた」(香味醗酵)という。
大手企業も、音波を活用して複数のにおいを測定できるセンサーなどの開発に取り組んでいるが、香味醗酵の担当者は「どこもまだ本格的な実用化には至っていない」とする。
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