人間の体は多様な振る舞いで情報を発信し、多様な感覚により他者の意思や感情を読み取る。視線や声色、体のちょっとした動きなどは、オンラインで再現できるようになりつつある。また、そのような技術の成熟がVR(仮想現実)を基盤としたメタバースへの関心を高めている。一方で、オンラインでは再現できない感覚の一つが「匂い」だ。匂いの再現はさまざまなチャレンジが行われているが極めて難しい。
そもそも匂いを人に説明することは簡単ではない。色を説明するときのように「赤と青を混ぜたような」という説明はできず、「バニラのような」「マツタケのような」といったように、比喩によって説明することしかできない。また、ほのかに香るのであれば「いい香り」に感じるけれど、強く香ると「嫌な臭い」に感じることもある。その境界も曖昧だ。
人が匂いを感じるメカニズムは、視覚や聴覚といったその他の感覚と比べても複雑であり、分かっていないことが多い。人間には匂いを認識する受容体が約400個ある。匂いのもととなる物質は数十万ともいわれる。匂いのもとが受容体に反応することによって、人は匂いを感じる。
やっかいなことに、1つの受容体の反応によって特定の匂いが決まるわけではない。また、1つの物質が複数の受容体と反応することがほとんどである。つまり、ある物質が複数の受容体と反応し、その反応の組み合わせによって人は「ある匂い」を感じるのだ。反応する受容体の組み合わせは無数にあり、その複雑な組み合わせのなかで人はさまざまな匂いを感じ、好意的な感情や、不快な感情を覚える。
このような複雑なメカニズムを明らかにしようと取り組む研究者の方の話を聞いたことがある。東京大学大学院農学生命科学研究科の東原和成教授だ。東原教授が取り組むのは、400の受容体と数千ともいわれる食品や香粧品の匂い原因物質の反応に関するパターンを明らかにする取り組みだ。どのような物質に対してどのような受容体が反応するのか。その結果、人がどのような匂いを感じ、どのような情動の変化が生じるのか。その関係を明らかにしようとしている。
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